<セカンド・オピニオン>

 
セカンド
オピニオン:
コー助が1歳になったばかりという若さで“肥大型心筋症”を疑われた。獣医師会報で知った大学病院の ドクターと電話で話をしても「可能性は無いとはいえない」しかし「今まで扱ったことのある症例は数例」 病気自体の解明が進んでいない中、コー助の状態についてはっきりした回答は得られない。

●こんなに若くして肥大型心筋症の発症があるのだろうか?
●ウェルシュ・コーギーという犬種での発症例はあるのだろうか?
●このままの診断内容、治療で本当に良いのだろうか?

心エコーを取り、出てくる数値に一喜一憂する中でこれらの疑問だけはどうしても残っていった。 セカンドオピニオンを取ろう。そう決めた。

最初の一歩:

しつけ方教室でお世話になったIさんに相談をした所、隣市にあるB動物病院を教えてもらった。診断内容、 料金説明がクリアで信頼できる病院とのこと。病院を教えてもらってから暫く逡巡して数週間後に電話をしてみる。 受付に話をして、まずは検査より前に、今までの診断内容と検査結果の数値からどう判断されるか聞きたいことを 伝え、次週自分だけ来院することにする。来院予定日は6月4日(月)

6月4日(月):

当日まで、おとうちゃんには何も伝えなかった。彼は、今の治療を暫く続け、コー助に無駄な検査を させたくないと考えていたので。私もコー助を連れて行ってまた検査を初めからさせようとは考えていなかった けれど、反対されるかも知れないと思い、何も話していなかった。しかし当日偶々おとうちゃんが休みなのが 分り、事情を話すと案外なことに「どうせ行くならコー助も連れて行こう」ということになり3人で来院する。 前もって作っておいた、今までの診断内容や数値、これまでのコー助の状態などを記した用紙を持っていって 見せ、話をすると、「ここまでやられているのなら、専門の先生にしっかり診て頂いて判断してもらうのが いいでしょう、埼玉県の所沢市ですが、行かれますか?」とおっしゃった。もちろん「はい」と即答。 B先生はすぐに所沢にあるC病院の先生に電話をし、予約を取ってくださった。B先生のコー助の診察は無し。
C先生は元々東京女子医大で人間の心臓を診ていらした先生で、現在は動物病院を開業していらっしゃり、その分野では有名な方とのこと。

帰りながら思った。「今の主治医A先生は、大学病院のことを切り出したとき、確かにいつでも紹介は してくれるとは言ってくれたが、今のコー助の状態を良くするということに専念したいと言い、すぐに 紹介、とはならなかった。 新しく行った所のB先生はコー助を診ることなく、心臓であれば、ということですぐに専門医を紹介 してくれた。同じ獣医でもスタンスが違うなぁ」と。C先生の最初の診察予約は6月19日(火)。

6月19日(火):

行く前々日にB病院の受付の方から電話があり、道中が混むので 早めに行った方がいいこと、駐車場が少ないことなどを教えてくださった。先日初めて行って、紹介を して頂いただけなのに親切にして頂いて有難かった。

当日は朝7時半に家を出る。気にしていた渋滞も殆どなく、9時には所沢のC病院に無事到着した。

思っていた程大きな病院ではなく、普通の動物病院といった感じ。お忙しい先生と思い、前もって B先生に見せたのと同様の資料と、なぜ我々がC先生に診て欲しいのかを書いた手紙を送っておき、 前日にもC先生と少し電話で話をしていた(道順を聞こうとかけたら偶然にもC先生が出て、色々会話を することが出来た。C先生は手作り食を大変薦めていて、話がそっちの方まで及んだ。)ので診察室で のやりとりは少なく、すぐにコー助に聴診器をあてた。

C先生の初診:

実際にはすぐに終わったはずだが、聴診器をあてている時間がとても長く感じた。その後C先生はコー助の顔を見て、 体を触って、「問題ないでしょう」と一言。
私達はあっけにとられた。

「私だったら、聴診器で心音を聞き雑音もなく、この子の表情を見たら、これ以上の検査をしようとは 思いません。」

驚いた。こんなに簡単に、結果は“何でもない”ってことに現実味がなく、にわかに信じられない。 「もちろん希望があれば心エコー、心電図、胸部写真などの検査はしますが、その必要はないと思いますよ」 となぜか納得のいかない顔をしている私達に言ってくれた。

帰り道、良かったね、嬉しいね、またフリスビーが出来るね、と話が盛り上がったが、2人とも やっぱり現実味がない。
4月に初診を受け、治療法もない、治る可能性のない重篤な心臓疾患、肥大型心筋症の疑いを持たれ、 言葉に出来ないほどのショックを受け、泣き、時には2人がそのことで喧嘩をしたり、いろいろな情報を 集め、資料を読み、病院に10日おきに通い、検査をし、薬を飲ませ、運動もさせず、時々ぶり返す どうしようもない悲しみに傷つき、大いに揺れていた2ヶ月。言葉にすると2ヶ月は短い、だけど私達にとって のこの時間は、カウントできないくらい長く長く重い日々だった。 ーこの時間を「なかったこと」に消化するには時間が必要だった。

色々考えた。C先生の診断を疑う つもりはない、だって嬉しい結果なのだから。でも言葉にすればー漠然と「診療というもの」 に対するー“不信感”というものがあった。 おとうちゃんが言った、「この結果が真の結果であるなら、これまでの私達は余りにも心エコーの 結果に左右された。だったら、最後も心エコーの結果で納得しよう」 私も同意した。
おとうちゃんがC先生に検査のお願いの電話をしたら「やっぱり」と思ったような 感じだったそうで、すぐに予約を入れてくれた。検査日は7月7日(土)

7月7日(土)
最終検査:

心エコーをとるには時間がかかるので、午前中に入って、夕方に引き取りに…という話を聞いて いたので少しゆっくり8時半頃家を出た。今回も渋滞はなく、11時少しすぎにはC病院に到着した。
土曜日なので待っている人は多かったが待ち時間自体は長くなく診察室に入れた。

「本当に遠路はるばる申し訳ありません。昨日友人とも話していたんです、“やっぱりちゃんと検査して 結果を見せてあげないとダメだよ”って言われました。我々の仲間の診断で不信感を抱かせてしまった ことは非常に申し訳なく思います。少し時間がかかりますが、お待ちになっても構いません。 エコーをとる時、一緒にいてくださってもいいですが、飼い主さんがそばにいてジッとしていられない なら、最初にしっかりとした数値を我々がとってその後、飼い主さんにもエコーを実際見て頂く、 というのはどうですか?」
先生の言う通りでお願いし、待合室で待つ。

お昼休みを返上してC先生と看護婦さん2人が 検査に入ってくれた。胸の毛を剃るということで、しばらくバタバタ音がしていたがその後別室に移り、 静かになった。
2人で待合室の長椅子に座り、犬の雑誌や本を読んで待つが、内容はちっとも頭に入らず ただページを繰っていた。少しして名前を呼ばれ、検査室に入った。

薄暗い小さな部屋の中で、右側を下にし、口輪をされ、動かないように四肢をしっかりつかまれ、 顔をひじで押さえられ、診察台に横にされているコー助が目に入った。瞬間「ごめんね」と涙が浮かんだ。 ーもし病気でなかったとしたら… 今までの2ヶ月間、嫌な病院に連れて行き検査をし、投薬を続けていた のは私達。今回ストレスのたまるであろう検査をまたさせているのも私達。全てコー助のためと言いながら、 実際は自分達の安心のためにやっているとも言えること…。そう思ったら申し訳なくて涙が浮かんだー
その後、先生がモニターから顔を離してこちらを振り向き、「まったく問題ないですね。心筋症の“し” の字の疑いもないですよ」とデータを見せてくれて言った。
「心エコーは、決まった形(右下を横にして寝かせる) でとらないと意味がないんです。それとデータも。画像上で色々言ったりしないんです、きちんと プリントしてその用紙上で数値を計ったりして議論するんですよ。」とデータ用紙を見せて 説明してくれた。念のためにその用紙のコピーもとってくださった。

主治医のA先生は、“心エコーは本来なら右下に横にしてとるが、無理な姿勢をとらせ、 犬にストレスがかかるのでそれはやらないです”ということでいつもコー助は立ったまま右前足を ちょっとだけ抱えるような格好で撮っていた。更に、心臓医による学会はアメリカのそれを 衛星で受信して研究しているし、循環器の獣医師達の会合にもよく参加されるということを おっしゃっていた。もちろん、個人医ではなかなかない心エコーの機械も出身大学のと 同じで新しいものを入れているということだった。

私達の選択:

正直、C先生の診断結果が嬉しいのはもちろんだが、どこに入ってたかわからないけど体の力が抜けて、なんだか “ぽか〜ん”、とした気持ちになった。データを見てこの結果が現実味を帯びると考えたのは少し甘かった。 やっぱり問題は私達ー私の心にあるような気がした。 最終的にはどちらの先生の診断を私達が選択するかーそれによってコー助の健康も生活も まったく違うものになる。ーは自由、A先生の診断を信じれば、投薬を続けて、安静にして 決まったスパンで通院する。C先生の診断を信じれば、もう嫌な病院に連れて行って検査を する必要も、薬を飲ませる必要もなく、無理をせずに体力を回復していけばいい。

でももしA先生の診断をとって、コー助が健康だったら、投薬の影響、生活制限の影響が 今後大きく出てくるだろう。そしてもしC先生の診断をとって、コー助が心疾患を持っていたら、 元の生活に戻って、運動中に突然死の可能性もある。
コー助の健康は私達の選択で決まるということと同じだった。

・・・そして、もちろん私達はC先生の診断結果を信じる。

“多くの場合、ついついなんでもなかった結果に終わってしまうと、安心から、 誤診傾向の強かった診断や治療を仕方がない事とあきらめがちですが、 自分の愛犬の安全を確かに守れるのは最終的には飼い主家族の真剣でより適切な観察力です。”

今回の結果を聞いたある人からそう言われた。返す言葉がなかった。 獣医さんより誰よりいつも一緒にいてコー助のことを見ているのは私達。私達のコー助の 観察に自信があればこんなにも振り回されずにすんだかも知れない。 そして思った、今のコー助の様子を観察してみて、やっぱりC先生の診断を信じる 方が普通だと。

A先生に対して思うことは何もない。上記に書いたようにA先生の所にだけ 通っていたら、私達を納得させるに十二分の理論を説いていてくれいたから。 そして、今回コー助の心臓のことではA先生の診断はー私たちにとってはー誤診だったかも 知れないけれど、コー助の他の病気や怪我は治してくれていたし、A先生の評判を物語るように 患者さんはとても多い。いい主治医に巡り合えたと思っていたのだから…

感謝:

「コー助の栗鼻」を開設して2ヶ月と少し。多くの方たちが私達やコー助を 励まし、支えて下さいました。私にとってこの場は、自分の感情を吐露でき、様々な 意見を聞くことができ、いつも励まされる場所でありました。 みなさんから頂いたひとつひとつの言葉がどんなに嬉しかったか分りません。 もちろん、表立って言葉を表さなくても、このHPを見続け、心配して 下さっている方がいるのも知っています。その全ての方たちに心からお礼をー 「本当にありがとうございました。」

これから:

コー助との生活がまた新しく始まった気がします。過去2ヶ月の出来事は 無かったことにするのではなく、自分達がこれから出会うかもしれない様々な 出来事に対応するための判断材料にしていきたいと思います。そして 今回の出来事で、特に命に関わるような重大疾患の診断を受けた場合は 必ず他の獣医の診断も仰ごうと決めました。

コー助の心臓のこと、これからも気にかけ、体の他の部分もきちんと観察しながら、 私達の、この大事なちっちゃな命を守っていきたいと思います。
これからもどうぞどうぞ宜しくお願い致します。

by コー助、コー助のおとうちゃん、おかあちゃん




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